六章

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 その後、鑑田の運転する車に乗って役所に向かう。 「お正月でも婚姻届って受け付けて貰えるんですね」 「うん、やっぱり夫婦になった日って大事な日だからね。本人達にとっては」 鑑田は車通りの多い道路を(じれ)ったそうに運転する。その様子に華生は少し笑ってしまう。 「焦らなくても夫婦にはなれますよ」 鑑田はギクリと肩を竦めた後、子どものように口を尖らせた。 「だって、早く『俺の奥さん』って言いたいじゃないか」 「せっかちですね、私の夫になる人は」 少し鑑田をからかいながら役所の時間外窓口まで赴き、二人で何度も確認した婚姻届を提出する。若過ぎる二人を見た受け付けの女性は、本当は「浮かれたカップルが来たわ」とでも言いたげな冷めた目で「おめでとうございます」と言ってくれた。 これで私は「鑑田華生」になったんだ……。 名字が変わった事実をぼんやり噛みしめていると、鑑田が上目遣いで顔を覗き込みながらねだる。 「ね、華生さん。俺のこと、下の名前で呼んでみて?」 そう言えば、呼んだことがない。 「柊聖さん」 快く要望に応えると、鑑田はにやけた口元を押さえて感想を述べた。 「……思った以上に嬉しい」
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