六章

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その一回で力尽きてしまい、二人はそのまま眠ってしまった。空が(はなだ)色になった頃、先に鑑田が目を覚ます。 「ん……」 上半身を起こして、隣に眠る新妻の頭を優しく撫でる。彼女の反応は無く、やはり無理をさせただろうかと少し反省した。 もう少し、一緒に眠ってようかな。 鑑田は毛布を引いてそのまま潜り込もうとする。その時ふと、華生の白磁の背中が目に入った。 「あれ……?」 鑑田は掴んでいた毛布をそのまま捲りとる。そしてそのまま青褪めた。 華生の背中、右の肩甲骨の辺り。咬みついたような痣があった。まだ鮮明に自分を主張しているそれは、昨日今日のものだとしか思えない。しかし、自分は昨夜華生に咬みつくような行為はしなかった。 「……? おはようございます……」 ぶるっと震えた華生が目を開けて鑑田を見上げる。 ……なんか、怖い顔をしている……? 鑑田は温度の感じられない声で(たず)ねる。 「他の誰かと、寝た?」 華生の半開きの目が全て開いた。 何故、わかったのだろう? 否定するべきだろうか……いいや、誤魔化しは、尚更不誠実だ。 彼女は上半身を起こして鑑田と目線を合わせる。 「寝ました」 「浮気してたの?」 鑑田の詰問を受けて華生は考え込む。そして彼から目を逸らすことなく言った。 「浮気なんかしていません」 渇いた音が冷えた部屋に響く。鑑田は華生のほおを打った後、寝台から下りて服を着ると、部屋のドアを乱暴に閉めて出て行った。 華生は夫に打たれたほおを一撫でし、何事も無かったかのように服を着て身支度を始める。 愛する人はたった一人。昔も今も……未来も。
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