七章

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七章

三社参りの帰り道、華生(はなお)はコーヒー缶のプルタブを開けて運転席の鑑田(かがみだ)に渡す。 「ありがとう、華生さん」 鑑田はコーヒーに口を付けつつ器用にハンドルを回した。結婚して一年、年上の夫は色んな場所に華生を連れて行ってくれる。 「初詣、何をお願いしたの?」 華生は飲んでいたカフェオレの底を覗きながら答える。 「……今年も、幸せな一年になりますようにと。柊聖(しゅうせい)さんは?」 「俺はそろそろ、子供が欲しいな」 大学も卒業していないのに、随分気が早い。 「今日はどう?」 華生は申し訳なさそうに俯いた。 「ごめんなさい、今日は生理で……」 「そっか……」  少し、気まずい空気。鑑田はそれを誤魔化すように華生の頭を撫でた。 「結婚記念日だし、どこかでお茶でもしようか。どうせ夜は父さん達が待ってるし」 「空いてるお店、ありますかね?」 「探そうか、ドライブがてら」  華生は鞄の中に忍ばせた夫へのプレゼントを抱き締める。今の彼女は、夫の考えることを何となく読めてしまう。多分「探そうか」と言いつつ既に正月でも空いてる店を調べていて、そこでささやかなサプライズを用意しているのだ。だからその時自分も実は用意していたプレゼントを渡してあげるときっと喜んでくれるだろう、と察しがついている。 もう、あれから一年になる。
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