浄夜の月は朧

七章

野木が一彬に尋ねながらチラリと華生を見た。彼女は柔らかい笑みを浮かべて佇んでいる。一彬は半ば呆れたような声で返答した。

「こんなしがない酒屋の色恋沙汰を、よくもまぁ嗅ぎつけましたな」

「いやいや、鑑田グループと縁を繋いでからというもの、その端正なお姿が話題になってますよ。で、どうなんです？」

鑑田の言葉が少しどもった。

「そ、それは僕も初耳だなぁ。硬派だからこういう話は嫌いなんじゃないですか、お兄さんは」

なんとか言い切った後、鑑田が横目で華生を覗く。華生はころころと笑い声を上げながら言った。

「そんなの初耳ですよ兄様。どうして華生に教えてくださらなかったの？ 柊聖さんと一緒にお祝いを用意しないといけないじゃない」

ね？ と華生が鑑田の顔を見上げる。鑑田も「あぁ、そうだね、うん」と煮え切らない相槌を打った。