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一彬は観念した、と口を開いた。
「恋人なんてできていないのにお前に言うことがあるか」
「嘘よ、ホテルに二人で入っていったんでしょ?」
目をひん剥かせたのは鑑田の方だった。一彬はカクテルグラスを空にすると、淡白な口調で聞き返す。
「どこでそんな話を聞いたんだ?」
「聞いたんじゃないです」
華生が意味ありげに微笑むと、一彬は面倒くさそうに説明を始める。
「……大方二、三ヶ月前の話だろう。会社の飲みで酔っ払った女子社員が寝てしまって、家がわからんから近くのビジネスホテルに置いてきただけだ」
華生が茶目っ気を含んだ声で尋ねた。
「一緒に泊まらなかったのですか?」
一彬が鼻白んだ顔をする。
「俺がそんなに軽薄に見えるのか」
華生はきっぱり首を横に振った。
「見えませんから、堅物の兄様にそれをさせるだけの女性が現れたなら是非お会いしたいですね。ねぇ兄様……もしそんな人ができたのなら、華生が協力してあげます」
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