七章

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一彬は半ば呆れた顔を浮かべながら、その辺のスタッフにカクテルグラスを預けつつ言った。 「いらん、お前の助けなど。先に()ってるぞ」 一彬は一礼もせずにその場を離れてしまう。華生は鑑田の腕を組みながら軽口を叩く。 「全く兄様は……素直じゃないからいつまでも独り身なのよねぇ? 柊聖さん」 「華生さんも意外に頑固じゃないか」 鑑田は華生の眉間をグリグリと押して遊び始めた。置いてけぼられかけた野木がワザとらしい咳払いをする。 「……お二人とも、夫婦円満みたいで何よりですね。あまり見せつけると周囲の人に嫉妬されますよ」 二人は「しまった」と笑いながら少し距離を取った。 「そうですね、お見苦しいところをお見せしました……カメラマンもどこにいらっしゃるかわかりませんものね」 「そろそろ式場に入ろうか」と鑑田が促して、華生は寄り添うように付いて行く。 彼女は一度だけ振り返った。綺麗に整えた眉を吊り上げたその顔は、嫌悪している叔父に激しい敵意を向けている。当の野木は僅かに眉を上げて彼女を見つめていた。 ……私は只のお嬢さんではない!  一年前の怯えるばかりだった彼女はいない。華生は華やかな衣装には不釣り合いの針を刺すようなオーラで叔父を威嚇した。
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