七章

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 周囲がうっとりとしたため息を漏らす。等の夫人も「まぁ……」とほおを染めていた。 「落ち着いた方だとお見受けしましたけど……内に大きな情熱を秘めていらっしゃるのね。切ないけれど、貴方に陰でこんなにも愛されてるその女性はとても幸せですね」 突然、華生が席を立ち上がる。彼女は下を向いて震えていた。 「……失礼します。少々、席を空けますね」 「気分が悪いの?」  義母が心配そうに華生を見つめる。その優しい目線は、今だけは遠慮したかった。 「御心配なさらないで。お化粧室に行くだけですから」 椅子を元に戻して早歩きで会場を離れる。化粧室までの道のりは長かった。ようやくたどり着いて、個室に入り扉にもたれかかる。
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