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披露宴まで無事に終わり、晴れやかな顔をした参列客達が式場を後にする。華生も鑑田とともに新郎新婦に挨拶の後、両親夫婦と共に迎えの車に乗り込もうとしたところだった。
「華生」
一彬が彼女の名を呼んだ。息を乱しているところを見ると、走ってきたらしい。
「兄様、どうかなさいました?」
華生は一彬の胸ポケットからこぼれ落ちそうなポケットチーフを入れ直そうと手を伸ばす。一彬はその手を払い退けて詰め寄った。
「何かあっただろう」
鑑田も彼と一緒に華生を睨んだ。華生は「ごめんなさい」と小さな声で謝る。
「取るに足らないことでしたから」
一彬は般若のようにいかめしい目つきで華生を見下ろして叱責した。
「その取るに足りない悪戯がどう発展するかわからないだろう。俺はお前をそんなに浅慮には育てていない」
鑑田も、珍しく目を吊り上げていた。
「お兄さんの言う通りだ。あんな布切れ一枚で済まなかった可能性だってあるんだよ」
こんなに怒られたのは、久しぶりだ……
華生は二人に責め立てられて背中を丸めた。
「本当に……ごめんなさい。私が、悪かったです」
華生が心底反省しているのを確認すると、一彬は少し目つきを和らげた。しかし口調はそのままである。
「兄としてお前に命令だ。今後はどんな些細なことでも……鑑田さんに報告しろ」
もう、頼れる夫がいるのだから。
「わかりました」
華生が頷くと、一彬は黒いコートを翻し、タクシーを拾って乗り込んだ。
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