八章

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 階段を駆け降りた華生は、靴箱に雑巾を掛けていたハウスキーパーのおばさんに向かって叫んだ。 「すみません、兄が病院に運ばれたようなので笹野さんと一緒にお見舞いに()ってきます。柊聖さんに、電話を入れてください!」 「え? あのどういうことですか?」 「柊聖さんに、出掛けますと電話してください」 「面倒な訳ではありませんが、自分でされた方が早いのでは?」  華生はおばさんから一度目線を逸らし、頭を下げた。 「……正直あまり心に余裕が無くて。お願いします、玄関の施錠も」  彼女は玄関を開けっ放しのまま懐かしい笹野の車に乗り込んだ。ドアを閉めると同時に笹野はアクセルを踏みこむ。  隣に、華生より少し若いくらいの少女が座っていた。華生が無言で見つめると、彼女はぺこりと一礼する。 「娘です。ちょうど父と一緒にいたので」 「あら、本当ですか。すみませんうちの兄がご迷惑を、よろしくお願いしますね」  華生はまあまあ愛想よく挨拶したが、娘は暗い顔をしたまま正面を向いてしまった。 「……さぁ、急ぎますよ」  笹野がハンドルを廻す。今日はその手が、少し震えていた。
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