八章

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一方、卒業式が終わった鑑田は、サイレントモードにしていたスマートフォンに一件着信が入っていることに気がついた。 「鑑田ー! 写真撮ろーぜ!」 「悪い! 電話出てくるから待ってて!」 鑑田は浮かれ気分の友人の目を潜り抜け、スマートフォンを耳に当てる。 「もしもし?」 「あ、柊聖さん。華生さんから伝言です。なんか……お兄様が過労で病院に運ばれたからお見舞いに行くと。それで、笹野さんという人に乗せてもらうと言ってました」 ハウスキーパーの不穏な声に鑑田は顔を曇らせる。 「自分で連絡した方が早いよね?」 「余裕が無いからお願い、と。玄関も閉めずに行ってしまいました」 「……そう」 「その割には、お洒落はしっかりと。髪にチョウチョのバレッタ付けて」 「……華生さんはいつも身だしなみはばっちりだよね。ありがとう、電話してみる」 鑑田はすぐに華生に連絡をした。しかしいつまでたっても彼女は電話に出ない。 即座に嶋木家に電話を掛けた。 「はい、嶋木です」 瑛子(えいこ)ののんびりした声が返ってくる。 「お義母さん、鑑田です。一彬お兄さんが病院に運ばれたと聞きましたけど」 「え! そうなの? 主人からは連絡来てないわ!」 ……やっぱりそうか……。 鑑田は、スーツのポケットの中で左手を握り潰した。 「どうしよう! 事故か何かかしら……私も行かなくちゃ」 「お義母さん、おそらく何かの間違いです。突然申し訳ありませんが緊急事態です。すぐに本社に電話して、『緊急だから最優先で鑑田の電話に出ろ』と一彬お兄さんに伝えさせてください」 鑑田は瑛子が返事をする前に通話を切ってしまう。 少し頼りない人だが多分大丈夫だろう。 鑑田はスマートフォンのアドレス帳の「嶋木一彬」をプッシュした。
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