1328人が本棚に入れています
本棚に追加
/264ページ
悩みながらもタクシーで30分くらい足を休めていた華生は、公道の青い案内板に知っている地名があることに気づいた。
「あ、そこ右折です」
「いや、直進で大丈夫ですよー」
「……そうでしたっけ」
地理感覚にそれ程自信があるわけではない華生は、道のプロであろう運転手の言うことを、半信半疑ながらも受け入れる。
しかしそれが甘かった。
「?」
よくあるロードサイドのホテルのこっそりした入り口を、タクシーは躊躇なく通り抜けてしまう。
「あの、お金が家に帰らないと払えないと言いましたよね?」
「いや、貴女のタクシー代を払ってくれるって連絡があったからー」
「そんなことが……」
華生が反論しようと身を乗り出すと、もう彼が小汚い笑顔を浮かべながら近付いてくる。
「待っていたよ、華生ちゃん」
タクシーのドアが自動で開く。早く出て行けと言わんばかりに。
最初のコメントを投稿しよう!