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空に月が昇った頃、華生はタクシーの運転手を睨みつけながら車を降りる。当の彼は素知らぬ顔で鼻を穿っていた。
野木がセンチ単位の厚さの万札を運転手に渡すと、彼は脱兎の如くその場を去ってしまう。華生はその様子を一歩一歩後ろに下がりながら伺っていた。
くるりと振り返った叔父が演技がかった調子で首を捻る。
「華生ちゃんはこんなにお転婆だったかな。靴も履かずに車を飛び出すなんてびっくりだよ」
「七年厳しく育てられましたから。今日を狙ったのは、大学の卒業式で家族が居ないのを知ったからですね?」
華生は唾を吐くように言い返した。しかし彼には負け惜しみにしか聞こえない。
「……追いかけっこは充分楽しんだろう? 助けは来ない。こっちに来るんだ」
華生は駐車場に全くと言っていいほど車がとまっていないのを確認すると、ゆっくりと野木の方に進み出る。そうすると彼はニンマリと口角を上げた。何かを言いたげにしている。
黙って犯されてたまるものか。
野木が口を開く前に華生は口を挟む。
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