八章

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「……私に唄子(うたこ)の代わりが務まるかしら」  野木の顔が、電池を抜かれたロボットのように動きを止めた。華生は皮肉な笑みを浮かべながら喋り出す。 「知ってましたよ。叔父さんが妾にしたかったのは、私じゃなくて、お母さん。昔、私がいる風呂場に入ってきたとき、叔父さん勃ってなかったもの。あと一年前に再会して、私を不意に『唄子』と呼んだ時と、昔貴方がお母さんを犯していた時、血走った眼が同じだった。……私を妾にと言ったのは、そう脅せばお母さんは身体を差し出すと思ったんでしょう。……あまり子供を舐めない方がいいですよ」  野木は身体から汗を吹き出し始める。いやらしい笑みは潮のように引いていた。 「思い出しました。今日は叔父さんがお母さんに跨っていたのを私が見つけた日だわ。記念日にしているのかしら……無様ですよね。お母さんは、同じ兄弟なのに伸一(しんいち)のことしか見ない。伸一が事故で死んでも彼に一筋。貴方は入る隙も無い。やっと身体だけ征服しても、その心は手に入らないまま死んでしまった。じゃあその娘が成長したら? 若いうちから調教すれば、愛を囁いてくれるかも」 「あいつの名前を口にするな!」  野木はヒステリックに叫んだ。そして華生の手を乱暴に掴んでホテルのフロントに引き摺り込む。 「いいからこい! 黙って俺に脚を開け!」  ホテルのパネルは一部屋しか画像が表示されていない。野木は最後の一部屋のボタンを叩きつけ、エレベーターに向かう。  叔父に羽交い締めにされている華生は彼の腕に爪を立て暴れた。  最後まで、その瞬間まで、抵抗してやる! 決して、ただで犯されてなるものか!  野木が部屋にカードキーを通し、ドアノブを廻す。閉塞感のある部屋が、目に飛び込んでくる。
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