八章

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「人の妻とこんな所で何するの?」  底冷えするような声に、華生がぱっと顔を綻ばせた。鑑田がらんらんと目を光らせて、野木の顔面を壁に力押しする。ショックで華生を抱きしめる手が弛み、彼女がするりと抜け出て夫の胸に飛び込んだ。  鑑田は優しく乱れ放題の妻の頭を撫でる。 「よく、時間を稼いだね」 「助けてくれるのを、待ってました」  華生が満面の笑みで鑑田を見上げた。頭を打ち付けられた野木が、情け無い声で鑑田に訊ねる。 「柊聖さん、なんでここに」 「華生さんの髪飾り、GPSついてるんだよね。だからおおよそ場所を特定できた。そして、貴方が買収していた笹野さんをさらに買収した。彼のお陰で、貴方がこの界隈のタクシーを買収したことがわかったから、貴方が行きそうなホテルをビジネスホテルからシティホテルまで片っ端から差し押さえた。電話しても、空いてる部屋なかっただろ? 一室だけ選べるように細工して、ここに来るのを待ってたよ。いやぁお金かかったなぁ」  淡々と説明する彼を見る野木は、死人のように青白い顔をしていた。
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