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「ホテルにカメラついているから、貴方と華生さんがラブホテルに入った証拠は完全に抑えられてるよ。笹野さんも証人になってもらうから……貴方の人生、終わりだね」
野木の膝がガクリと床に崩れ落ちた。
「ここで舌を噛む?」
泡を吹く野木は死を待つ囚人のようである。それを見た華生は遠慮がちに、仁王立ちで彼を見下ろす鑑田の手を引く。
「柊聖さん。お義父様と、この人のご家族には言わなくていいですよ」
鑑田が耳を疑ったかのように目を見開いた。華生は夫の手を離れ、しゃがんで叔父と視線を合わせる。
「金輪際、私の前から姿を消していただければいいです。そこまで譲歩してあげますから、生涯それを守ってください」
子どもに言い聞かせるような、ゆっくりとした丁寧な口調が、余計野木には恐ろしかったらしい。
「は、は……い」
喉から手が出る程欲しがっていた姪が、手を伸ばせば届く距離にいるのに、彼は後ろずさりを始めた。
鑑田は一度だけ深いため息をつく。
「明日必ず、会社に辞表を提出してください。華生さん……行こうか」
彼は笹野から預かった華生のパンプスを丁寧に床に置いた。華生はそれに足を入れ、鑑田から鞄をもらう。
「すぐ出られるよ。フロントに話を通してあるから」
二人が部屋の扉を開けて閉める。
独りきりの部屋で野木は絶叫した。
「くそぉぉぉぉぉ!」
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