八章

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車に乗って一時間、連れてこられた場所を見て華生は間抜けな声を出す。 「役所……?」 鑑田は狐につままれたような華生に向かって、にっこりと微笑んだ。 「華生さん。今日をもって、貴女の『俺の妻』の任を解くよ」 華生の頭に星が飛んだ。 今、私は何を言われたのだろう。 「貴女は、俺には勿体ないくらいの有能な妻だった。美しくて、気立てが良くて、いつも傍らで俺の顔を立ててくれた。本当に、ありがとう」 鑑田は顔つきは至って穏やかで、語りかけるような口調だった。 「だけど華生さんは、俺を愛してないんだよね。今まで一度だって、俺に『愛してる』と言ったことがないだろう。頼めば言ってくれたんだろうけど、それは心からの言葉じゃないから」 華生の瞳から一粒雫が落ちる。鑑田はくすっと声を漏らした。 「……一彬さんのもとに、戻ってあげなよ。あの人は……華生さんじゃないと幸せにしてあげられないよ」
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