八章

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昔から悪いことや狡いことをやりきらない男だった。餓鬼の頃から知っているこの男なら、俺の電話に必ず出る。 「……もしもし」 消え入るような声が、後ろ暗い気持ちがあると物語っていた。一彬は早速本題をぶつける。 「笹野、お前は誘拐なんてするような男じゃなかったな」 笹野の声はもはや聞き取るのがやっとだ。 「……言葉もありません」 「金か?」 「……浅ましい男でお恥ずかしいですが」 「いくら必要なんだ? 俺が負担しよう」 一彬は仕事をしている時の事務的な口調を崩さない。 「いくらかなんて私にもわかりません」 「必要な金額をその都度俺に報告しろ。耳を揃えて用意してやる」 笹野の声が上擦った。 「何に使うのか聞かないのですか?」 「余程の事情があると見た。話は後で聞く。俺たちは華生を取り返す。こちらの要求をのめ」 「……一彬坊ちゃん……」 お前の感情の起伏に付き合っている暇はない。 「時間がない。仔細を話せ」
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