八章

33/41

1327人が本棚に入れています
本棚に追加
/264ページ
どのくらい時間が経ったかわからないくらい、華生は一彬の腕の中で目を閉じたままだった。 この腕に抱かれる日がまた来るなんて、思いもしなかった。相変わらずあたたかくて心地よい。 「……冷えているだろう」 仏頂面に戻った一彬が、家の中に入るように促す。 「あ、はい。今上がります」 左の靴を脱いだ華生は「痛っ」と叫んで顔を歪めた。 「あ……」 一彬が華生の左足に視線を落とす。泥にまみれ爪は無残に割れており、パンプスの中敷も赤黒い染みができていた。 「……」 「きゃっ!」 一彬は、華生の腰を抱えて脚を持ち上げる。横抱きにされた華生は目をパチクリさせた。 「もう片方、自分で脱げるか?」 「あ、はい!」 華生は手を伸ばして右足のパンプスも脱ぐ。一彬が屈んでくれたので、手を伸ばして靴を両隣に揃えた。一彬は彼女が靴を置いたのを確認すると、そのまま立ち上がって歩き出す。
/264ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1327人が本棚に入れています
本棚に追加