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着いた部屋は華生ではなく一彬の部屋だった。
「少し待っていろ」
一彬のベッドの上におろされた華生は、彼がいない部屋を所在無さげに見渡す。
何も変わってない。
本棚に入っているビジネス書も、机の上に整理された資料も。クリーニングから戻ってきたばかりのタグがついたスーツは、見たことがない気がする。
なんだか、緊張する。昔は日課のように遊びに来ていたのに、今の自分はお客様みたいだ。
キイ、とドアが開く音に振り向くと、一彬が救急箱を持って戻って来た。手当までしてくれるなんて、今日の彼はなんて甲斐甲斐しいのだろうか。
「ん」
割れた爪の間に、脱脂綿に付けた消毒液が塗られる。一彬のいかにも素人らしい手当を黙って受けているのは気恥ずかしい。
「えっと、ありがとうございます。兄様」
「あぁ」
一彬は生返事を返しながら、華生の足に絆創膏を貼る。
「……応急処置だが」
華生の足を絆創膏まみれにすると、ようやく一彬が顔を上げた。
「ありがとうございます」
華生は落ち着きなく目をキョロキョロさせる。
「どうした」
「あの、お父様とお母様に挨拶しなきゃ……」
深夜一時をまわっているが、彼らが起きているなら一言かけるのは礼儀だろう。しかし一彬は首を横に振った。
「今日はいい。お前も疲れているだろう」
「疲れているって、挨拶もできないくらいでは」
「構わんだろう。今日は休め」
「そうは言っても」
一彬が呆れたように溜息を吐いた。
「……少し聞き分けがなくなったな」
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