終章

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車に乗っている間、華生は何も尋ねることができなかった。 どんな方ですか? おいくつなのですか? 好きな食べ物は? どんな質問も一彬の心の琴線に触れてしまう気がして口を噤む。 唯一、「手土産はどうしましょうか?」と言ってみたものの「あの人にそんなの要らん」と素気無く返されてしまった。 集合団地の中の一軒家に、「渡利法律事務所」と銀色の看板が出ている。 「今日は営業してないのかしら」 「構わんだろう。日付を指定していないんだから」 一彬はさっさと玄関のインターホンを押してしまう。「はーい」と溌剌とした返事がして、50代前半くらいの黒いショートカットの女性が扉を開けた。
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