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蔦江はクッキーをほおばりながら語る。
「元々あの人とはケンカばっかりだったしねぇ、でも、会社を一人で背負おうとする気概は嫌いじゃなかったわ。私よりも会社を選んだそこはね、人として尊敬してるの」
朗らかな笑顔は強く眩しくて、とても美しかった。
なんて生命力に溢れる方だろう……。
「でも一彬がその背中を見て育ち過ぎたのは誤算よねぇ。見てアレ瓜二つじゃない」
「えっと、まぁ、そうですよね……」
九年前には既にああだったので、華生も否定のしようがない。
「一彬もあんまりあの人と仲良くはなかったけど、ちゃんと尊敬はしてたみたいね。私が嶋木を出ていく時、泣いてすがってくるかと思ったら、真顔で『達者で暮らせよな』と言われたわ! まぁなんて会社思いな息子!」
産みの親に対してなんてことを言うのだろう、小さな一彬兄様は……
本人は笑い話にしているが、夫の薄情さにさすがの華生も引いてしまう。
「でも、そんな一彬が自分が望んだ女性と結婚したって聞いた時は嬉しかったわ。あんな冷血仕事人間が会社を捨てるなんて、よっぽど華生さんが大好きよ」
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