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三章
夜の八時過ぎ、自室の机に置いていたスマートフォンがチャイコフスキーの「花のワルツ」を奏でた。画面に表示された名前を確認すると、華生はワンフレーズが終わるのを待ってから通話ボタンを押す。
「もしもし?」
「こんばんは華生さん、今良いかな?」
鑑田の声は穏やかだ。二人目の義兄のように。
「あっはいもちろん!」
華生は椅子の上に正座しながら返事する。すると電話の向こうで鑑田が笑いを零した。
「……ふふっ。そんなに緊張しなくていいのに」
「そっそうですね! はいっ」
「まぁいいか、少しずつ慣れてね」
クスクスと笑ってどこか嬉しそうな鑑田に、華生は少し安心して足を崩す。
「そうですね……はい」
「この前はどうも。華生さんみたいに可愛い人に今まで会ったことなかったから、緊張しちゃった」
「え、そ、そんなことないです!」
華生の白磁の顔が朱に染まる。「可愛い」なんて一彬は彼女に言った試しがない。
「可愛いって。ふふ、なんかこの前と逆だね」
見合いの席では、むしろ華生が積極的に鑑田にアプローチをした。正直、一彬への当て付けだったのだが。
「あの、お見合いの時のことは忘れてください……」
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