三章

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喉が渇いたと感じた華生はリビングに向かう。彼女は部屋の前で手を伸ばしてそのまま静止した。いつも気軽に出たり入ったりする部屋なのに、なんだか嫌な胸騒ぎがする。 華生は訝しみながらもドアノブを回した。きつい香水の臭いに彼女は顔をしかめる。目に飛び込んで来たのはショッキングピンクのキャリーケース、あまり趣味が良いとは言えない虎の絵が背中に描いてあるスタジャン、もはや白に近い明る過ぎる金髪だった。 「……風恒(かぜつね)兄さま」 「華生か」 大学に入学して初めて帰ってきた彼は、以前より輪を掛けて派手になっていた。両耳に5、6個ずつ空いていたピアス穴が鼻と唇にも空き、そこに金色の輪っかがぶら下がっている。天井に突き上げるような髪に、ビンテージだか知らないが百回は洗濯したような薄い布のタンクトップを纏う姿は、残念ながら一彬や弘海と同じ社長子息だ。 「また、派手になりましたね」 「お前も説教する気か?」 風恒は不機嫌そうに華生を睨みつける。大方父親の成親(なりちか)辺りとやりあった後なんだろう。右のほおが赤くなっていた。使用人の世津子(せつこ)が汗を垂らしながら冷えたお茶を用意している。
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