三章

6/33
前へ
/264ページ
次へ
 何故か近寄ってきた風恒は、華生の顎を無遠慮に掴んで持ち上げた。 「侮辱はしてねえよ。事実を言っただけだ。やっぱり男好きのする顔だな。風俗嬢によくいる顔だ」  遊び呆けた大学生が生意気にも風俗に通っているのか。丸い目、長い睫毛、ふっくらしたほお、小さな口。水商売向きかどうかは別として、華生の顔は確かに男を誘うのに相当有利である。 「風俗の人間を馬鹿にするような言い方が気に入らないんです!」  華生は顎を挟まれたまま負けじと吠えた。 「複数の男を相手にしているのは事実だろ? 夫一人しか男を知らない女より清楚と言えるか?」 「それだけが女の魅力じゃない!」 「綺麗事だろう。特に鑑田のような歴史ある会社には」  風恒の言葉はあながち外れていない。鑑田家は大正から続く元財閥だ。妻に迎えられる女性も代々政治家や医者、富豪の令嬢であり、風俗出身の女は一人もいない。 「百歩譲ってそちらの価値観に合わせても、私は貴方の言う『清楚』に相違ないわ!」
/264ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1332人が本棚に入れています
本棚に追加