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華生が自分の手からすり抜けた後、一彬は拳を握りしめてズカズカと歩き出す。まず入ったのはリビングだった。乱暴に扉が開く音で、涼しい顔をした風恒が顔を上げる。
「よぉ兄貴、遅かったな」
一彬の眼は爛々と光っていた。
「……華生に何をした」
「何の話だ?」
惚けた一言に一彬は声を荒げる。
「何をしたのか聞いているんだ!」
風恒は顔色一つ変えず雑誌をパラパラ捲っていた。
「華生がどうしたんだ? 俺があいつに何かをしたという証拠でもあるのか」
証拠、という言葉に一彬は唇を噛む。華生は口を割らなかった。しかし今の彼女に悪戯をしそうなのは、風恒しかいない。
「……兄貴は昔から、華生のこととなると随分取り乱すよな。まるであいつに、特別な感情でもあるかのように」
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