三章

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「華生、和食が好きなんだ。大学生の懐には優しくない店だけど、あんたには関係ないだろう?」 鑑田の大学の最寄り駅から少し歩いた所にある料亭だ。見合いの席を設けた場所にはやや劣るが、一般大学生がデートに使うような料理屋ではない。 「……ここに連れて()ったら華生さんが喜ぶんですか?」 「……きっと……」 少し間をおいて風恒が答えると、鑑田の顔がほろっと綻んだ。 「嬉しいです、風恒さん。妹思いな方なんですね、至らない僕ですが、これからもよろしくお願い致します」 「……妹思いね……」 風恒が意味ありげに呟く。しかし鑑田は照れているくらいにしか受け取らなかった。 鑑田は気づかない。風恒は華生が「喜ぶ」とは一言も言っていないことを。
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