三章

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日曜日の朝、華生は着替えが入ったボストンバッグを抱えて玄関先でパンプスに足を通す。 「随分と大荷物だな」 後ろからネクタイを締めた一彬が声を掛ける。休日出勤らしい。華生は振り返って笑顔で答えた。 「今日は鑑田さん達とテニスをするから」 「動きやすい格好のまま出掛けたらいいんじゃないか?」 「テニスをした後、鑑田さんがお食事に連れて()ってくれるんですって」 「そうか」 留め具の穴が狭いのか、少し苦心しながらヒールのストラップをはめる華生の頭に、一彬の大きな手のひらが乗る。華生は目を倍の大きさにして顔を上げた。 一彬の表情はいつもの如く感情がわからない。しかし華生にとってはその一言で充分だった。 「楽しんで来るように」
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