三章

16/33
前へ
/264ページ
次へ
「……はい!」 華生は開いた朝顔のような微笑みで玄関を出る。その足は踊るように軽やかだった。 一彬兄様と前みたいにちゃんとお話しできるなんて、今日はいい日になりそう! 送迎の車に乗り込むと、笹野(ささの)という白髪の運転手が穏やかに声を掛ける。 「華生さん、ご機嫌ですね」 「ええ! 一彬兄さまとお話しできたから!」 「華生さんは、一彬坊っちゃまと仲良しですからね」 老齢の笹野は三十過ぎの一彬を坊っちゃまと呼ぶ。華生にはそれが可笑しくて仕方がない。 「さぁ、行きましょうか」 「お願いしますね!」 火傷しそうな夏空の下、鼻歌混じりの華生を乗せた黒塗りのクラウンは、鑑田との待ち合わせ場所に走る。
/264ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1331人が本棚に入れています
本棚に追加