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着替えを済ませてコートに降り立った華生を見て、鑑田は満足そうに微笑む。
「スコート姿、可愛いね」
「ふ、服に着られてないでしょうか……?」
華生はスポーツなど学校の体育の授業でしかしないので、わざわざスポーツ店で選びに行った。ショートパンツでは女の子らしくないだろうと思ってスコートタイプ、それも淡いピンクのものを選んだのだが、普段太ももが見えるような服もパステルカラーも着ない彼女は、コスプレをしているみたいで恥ずかしくて仕方がない。
「そんなことない、似合うよ」
鑑田さんは優しいからお世辞かもしれない、華生はほおを緩めないようにして会釈した。
「ダブルスにしよう、僕と華生さんのペアで良いよね?」
「はっはい!」
華生はテニスラケットをしっかり抱いたまま、鑑田に続いてコートに入る。
「華生ちゃん、サーブ打ってみる?」
相手コートから声が飛んだ。
「え?」
「打ってみなよ、華生さん」
鑑田が華生にテニスボールを手渡した。彼女の小さな手にはテニスボールの硬球は大き過ぎる。
こんなガサガサした重いボールを打つなんて私に出来るだろうか? でも、せっかく言ってくださったからやってみようか。
華生は左手でボールを高く投げ、右手に持ったラケットを振り下ろす。
「あれ?」
手ごたえが全く感じられない。華生がぽかんとして辺りを見回すと、足下でテニスボールが虚しくバウンドしていた。
「……空振りしたね……」
鑑田が冷静に呟く。
「どんまいどんまい!」
相手コートから飛んでくる言葉が逆に恥ずかしい。
「ご、ごめんなさい、鑑田さん……」
顔を赤くして平謝りする華生に、鑑田はしたり顔で言う。
「……いいもの見れたな」
「え! ど、どういう意味ですか!?」
華生の声のボリュームが上がった。
「ははっ! ボールを上から叩くんじゃなくて、下から掬い上げてごらん?」
華生は逃げ出したい気持ちをこらえながらも、鑑田の言う通りにする。
ポーンと気持ちいい音がコートに響き、相手のコートにボールが届いた。
「やった! 打てた!」
「上手かったよ、これから頑張ろう!」
鑑田の声で憑き物が取れたのか、華生はボールと一緒に跳ね回る。汗だくで無邪気に笑っていたのを婚約者がずっと見つめていたことに、彼女は気付いていない。
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