三章

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二時間ほどテニスを楽しんだ後、華生は鑑田の車に案内される。銀のボディの普通の国産軽自動車だ。鑑田は手際よく助手席のドアを開ける。 「華生さん、乗って?」 「ありがとうございます。では……失礼致します」 華生は緊張した面持ちで助手席の椅子に腰を下ろした。 「さぁ、行こうか」 鑑田が運転席に乗り込みシートベルトを締める。 「免許、持ってらっしゃるんですね」 「うん、車は従兄弟が昔乗ってたのを貰ったんだ。就職したら、自分で好きなのを買いなさいってさ」 鑑田の柔和な横顔は、線がスマートで端正だ。 「あの、そういうキチンとした格好も素敵ですね」 「そうかな」 スーツではないがチャコールのパンツに落ち着いた黒いジャケットを合わせた鑑田は、学生にしては少し大人びて見える。 「おろしたてなんだ。華生さんに褒められるなら着てきて正解だったな」 また、顔が少し染まった。そういう素直な反応は、心を(くすぐ)られてしまう。 ……一彬兄様のこんな表情(かお)も、一度くらい見てみたい。
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