三章

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三十分ほど窓の外を眺めていると、落ち着いた佇まいの和風建築が見えてくる。 「着いたよ華生さん」 鑑田は自分が先に車を降りると、またも紳士的な所作で助手席のドアを開けてくれる。差し伸べられた手に、華生は素朴な疑問を浮かべた。 どこで女性のエスコートの仕方なんて習ったのだろう、ひょっとすると私のように結婚相手に気に入られるために躾けられてるのかもしれない。 「ありがとうございます、鑑田さん」 華生は鑑田の手を取ってにこりと微笑んだ。 「素敵なところですね、こんなところに連れて来ていただいて良いのでしょうか」 夕顔が咲く枯山水の小庭園を見渡しながら言うと、鑑田は満面の笑みを返す。 「貴女のお兄さんが教えてくれたんだ。華生さんは和食が好きだからここなら喜ぶだろうって」 「お兄さんって……一彬兄様ですか?」 「いいや、風恒さんだよ。派手な格好だから驚いちゃったけど、妹思いなんだね」 華生の眉根に皺が寄った。 「……風恒兄さまと、どこでお会いしたのですか?」 「わざわざ俺の大学に来てくれたんだ。ここのお店の名刺を持って」 不自然にも程がある。義妹の首筋を舌で舐める悪辣な兄だ。純粋な好意でこんなことをする筈がない。 「華生さんどうかした?」 鑑田に不思議そうな顔を向けられ華生は我に返る。 「なんでもありません、虫が横切ったものですから」 華生は素知らぬ笑顔で鑑田について行く。 ……風恒兄さまなんかに、邪魔をされてなるものか。
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