三章

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二人並んで周りに小石が敷かれた玄関先の道を進み、鑑田が(ひのき)の扉を横に開くと、(とき)色の着物を着た仲居が三つ指をついて待っていた。 「いらっしゃいませ。この度はお越しいただき誠に有難う御座います」 「どうも、予約していた鑑田です」 鑑田が気さくに挨拶をすると、仲居も品の良い微笑を返す。 「お待ちしておりました。それではお部屋にご案内致します」 履き物を仲居に預け磨き上げられた廊下を歩いていると、他の仲居達の視線を強く感じた。「鑑田」なんてただでさえ珍しい苗字だ。大会社の令息だということはとっくに承知らしい。 「こちらです」 奥の座敷を案内され、開けられた(ふすま)の奥に入ろうとした瞬間、事件が起こる。 「あれ、野木(のぎ)さんじゃない?」 華生の動きがぴたと止まった。一縷の望みを懸けて辺りを見回すも、他の客は見当たらない。 「野木さんでしょ? 俺のこと覚えてる? 小学校以来だから忘れちゃったかな」
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