三章

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華生の悲鳴が虚しくリビングに響く。 「いや……! 一彬兄さま!」 「まだ言うか!」 風恒が華生の口を塞ぐ寸前、開けっ放しだったリビングの扉の前に人影ができた。 風恒を無言で見下ろす一彬の眼は、血が繋がった弟を見る眼ではなかった。彼は爛々とした眼で風恒の胸ぐらを掴み華生から引き剥がした。 「痛っ……」 言葉を発するその口に一彬の握り拳が飛ぶ。頭を床に叩きつけ、右に左に容赦なく拳を打った。 助けられた当の華生が恐怖で震えているのをよそに、ただ無言で弟をなぶり続ける。こんな一彬は、見たことがない。 彼の拳を納めたのは、父の怒鳴り声だった。 「止めろ一彬! 弟を殺す気か!」 一彬は邪魔をするなとばかりに成親に視線を向ける。 「何があったんだ…!」 成親は、部屋の隅で左肩を剥き出しにしてブラジャーをずり下げている華生を見て全てを察した。非難の目は顔をぶくぶくに腫らした風恒に向けられる。
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