三章

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「此処を追い出されるのは……いや」 一彬には彼女の言葉の真意がわからない。 「追い出す? 何を言うんだお前は」 「お願い……私を一彬兄様の妹でいさせてください……」 華生の声は(つる)が鳴くように細い。「守ってやる」と約束してこのザマなのに……一彬はわざと冷淡に言った。 「……風恒(アレ)には厳しい処置をするが、今後お前の身の安全が確実に保証される自信はない」 成親でも手を焼く悪童とは言え、勘当はしないだろう。後妻である瑛子(えいこ)にとっては、度を過ぎてやんちゃでも憎み切れない大切な息子だ。良家の生まれで根っからのお嬢さんである彼女が、腹を痛めて産んだ息子が強姦未遂をやらかしたという事実を受け入れることはできないだろう。もし知ってしまったなら、手首を切るかもしれない。成親も、そして一彬すらも、今回の件は瑛子には黙っているつもりでいる。 それでも華生は必死だった。 「そんなのされなくて構わない! いやなんです! 貴方との繋がりが無くなってしまうのが!」 一彬はその時合点する。 何故、華生が最初に風恒と揉めた時、頑なに口を閉ざしたのか。
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