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四章
九月の初め、取引先の会社から引き上げた一彬がスマートフォンを確認しながら黒塗りの送迎車に乗り込む。
「悪い笹野、電話をかけ直す」
「はいもちろん」
運転手の笹野は笑顔で快諾した。一彬は脚を寛げながらスマートフォンを耳に当てる。
「……親父。電話をしたろう」
「ああ。華生嬢のことで、学校から電話があった。明日か明後日、時間はあるかと聞かれている」
「どうせ成績のことだろう」
「俺は行かれん。お前が行け」
父とはいえ社長が行けないと言うなら部下である一彬に拒否権はない。
「……明日行くと返事しておけ」
一彬がスマートフォンを耳から離したのを見計らい、笹野が声を掛ける。
「……華生さん、この間の登校日に実力テストがありましたよね」
「聞こえてたのか」
「華生さん、成績落ちたんですか?」
一彬は煙草を咥えながら窓を開け、大きく煙を吐いた。
「……逆だ」
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