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「あの……私も校内の進学率の為だけに申し上げているのではございません」
「承知しております」
大方学年主任だか理事長だかにハッパをかけられているのだろう。しかし彼女を外してまで説得を試みるのは、教師として他人の娘の可能性を願うことに他ならない。
「彼女が養子だと言うのは承知しておりますが、貴方も東京、二番目の弟様も京都の方のいい大学に籍を置いておられる。……お金の話をするのは失礼だと存じてはおりますが、奨学金制度もあります。彼女の未来の可能性を広げる為にも、どうか考え直してみてはくれませんか?」
鉛のような沈黙が走った。耐えかねた担任がもぞもぞし始めると、ゆっくり一彬の口が開く。
「……妹の未来は既に決まっています。だから大学進学をする必要がありません」
担任が反論をしようとするのも束の間、一彬は立ち上がり談話室の出口に向かって歩き出した。
「話は以上です。……これ以上の返答を私はできません」
呼び止めるなと、背中が言っていた。担任は穴が空くほど見た華生の成績を横目に、少し地肌の見えた薄い頭を抱える。
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