四章

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 一彬が談話室を出て間もなく、鞄を抱えた華生が側に寄って来た。 「ごめんなさい、一彬兄様。忙しいのに来てもらって」 「俺を寄越すだけの成績を出したのはお前の努力の結果だろう」  一彬がぶっきらぼうに褒めると、華生は花開くように微笑む。 「はい」 「……帰るぞ。帰りにアイスクリームでも食べるか? 笹野に寄り道させよう」  割と寛容な性格の笹野は、こういうことにもノリがよい。 「行きたいです! 一彬兄様も一緒ですか!?」  華生の目がきらきらと輝いた。 「……そうだな」  一彬はあまり甘い物を好まないが、そんな子どものように無邪気な表情を前にして「車で待っているから笹野と二人で行ってこい」とは言えない。 「やった! 早く行きましょ!」  華生が一彬の手を引く。離さないと言わんばかりにしっかり握られた手を、一彬は振り解くことができない。
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