四章

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 二日後の夕方、弘海(ひろみ)を乗せた笹野の車が嶋木家の玄関に停まる。 「お帰りなさい弘海!」 瑛子(えいこ)が嬉しそうにスーツケースを抱えた息子に駆け寄る。 「ただいま母さん、笹野さんがお土産を持ってくるから運ぶの手伝って」 「あらあら」  瑛子は少女のように軽やかな足取りで車に向かって行った。 「お前、バイトは良いのか」 「兄さん、今日は休みか?」  渋いグレーのポロシャツを着ている一彬に弘海が訊ね返す。まだスーツを着てない頃から共に過ごしているのに、この兄はカジュアルな出で立ちをしているとどうも違和感がある。 「まぁな」 「年中無休じゃないようでなによりだよ。バイトは無理言って休みにしてもらった」 「無理? 何か大事な用事でもあったのか」  弘海が苦笑紛れに言う。 「用事というか……なんか俺がいない間に色々あったらしいからな」  察し顔の一彬の肩を叩き「少し休んだら話をさせてくれ」と言い残すと、弘海は自室にスーツケースを運びに()った。
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