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夕食を終えた後、自室で文庫本を読んでいる一彬を風呂上がりの弘海が訪ねてくる。
「相変わらず小難しい本ばっか置いてるな」
弘海はビジネス書や古めかしい作家の本ばかり並んだ一彬の書斎を眺めながら呟いた。
「お前歴史苦手だからな、華生と同じだ」
「でも華生は好きだろ、歴史」
一彬が「だからどうした」と言わんばかりに弟に視線を向ける。
「あいつ、知識だけなら昭和史なんか俺の同級生以上だぜ。多分」
昭和史は一彬が好んで読んでいたから覚えたらしく、彼女の口からは当時の政治家や軍人の名前もすらすらと出てくる。一彬と比較して苦手なのであって、一般的な水準に劣っているのではない。
「……華生の担任から、何か言われたのか」
本棚を見ていた弘海が一彬に視線を移す。
「兄さんを説得してくれって泣き付かれたよ。史学科に行けば良い論文も書けるだろうとさ」
わざわざ緊急連絡先を見て連絡したのだろうか。家族とはいえ大学生に電話するなんて意外に担任もしぶとい。
「あの人は華生を買い被りすぎだ。高校の成績がいいのといい論文を書くのは違う」
「……なぁ兄さん。華生が商品だと言うのなら、大学を卒業している方がその付加価値は上がると思わないか」
一彬が口元を引き結ぶ。するとさらに弘海は言葉を続けた。
「鑑田さんだってまだ若い。結婚するのなら、華生が大学を卒業してからでも遅くないだろう?」
「……鑑田さんは華生の学歴にこだわっていないから必要ないだろう」
弘海が一彬に詰め寄る。
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