四章

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ガキの頃、朝起きて朝飯を食いに()ったら、一彬兄貴の隣に座って白飯を食っていたのが華生だった。 俺が声を掛けるとビクビクしていた癖に、一彬兄貴が頭を撫でるとふわっと笑った。 政略結婚を成功させる為だかなんだか知らないが、見てくれだけはみるみる美しくなった。 俺が帰って来ても平然とリビングで出迎える癖に、一彬兄貴が帰ってくるといつも玄関まで走っていって「お帰りなさい!」と叫んでいた。 俺が陸上の都大会に出たときは観ようともしなかった癖に、一彬兄貴が海外出張から帰ってくる日は電車を乗り継いでのこのこ一人で空港に迎えに行っていた。 一彬兄貴の話をしているときのあいつは声のトーンが上がる。兄貴の面白くもない一挙一動をいつも楽しそうに喋り続ける。 あいつの目は、俺なんか見ようともしない。ハナから、一彬兄貴しか見ていない。 そんな女、好きになっても仕方ないじゃないか……!
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