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文化祭の日、中庭に設営されたテントの中で、調理班が焼いた餃子をパックに入れて客を待つ。
天気が良いせいか、生徒や関係者以外の客も多く来ていた。しかも餃子なので男性客が他の店より多い。
「いらっしゃいませ。あ!」
ほぼ無心で営業スマイルなるものを浮かべながら接客していた華生に人間的な表情が戻った。
「制服似合ってるね、華生さん」
華生が営業スマイルなら鑑田はアルカイックスマイルだ。一人でふらっと来たらしい。
「嶋木さんのお兄さん? カッコいい!」
一緒に売り子をしていた女子の声が色めき立つ。
「婚約者の鑑田です。初めまして」
「うそー!」
後ろの調理班も、わざわざガスコンロの火を止めて鑑田を覗きにきた。華生は赤い顔で彼を窘める。
「か、鑑田さん!」
「ごめんごめん、でもチャイナ服とか着ないんだね。似合いそうなのに」
しっかり期待されていた。
「き……着ませんよ! もう、餃子食べててください」
居た堪れない華生は餃子のパックを押し付けてさっさと鑑田を追い出そうとする。
「華生さんは今日はずっとここで売り子?」
鑑田は財布からお金を取り出しながら尋ねた。なんだか小銭が似合わない。
「もう一時間したら交代です。終わったら電話しますから、時間潰しててもらってよろしいですか?」
鑑田の顔がパッと輝いた。
「うん、わかった!」
華生は嬉しそうな彼の顔を前に少したじろぐ。
そんなにこの人は、私に会うのを楽しみにしてくれてたのだろうか。
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