終章

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「……ねぇ、一彬兄様」 華生の声が変わる。可憐さを残しながらも、凛と通るカナリアのような声に。 「……どうした」 一彬の顔が真顔に戻る。いつもの、感情の見えない仏頂面に。 「私、兄様のこと、愛しています。生涯ずっと、貴方だけです」 「……言わんでもわかる」  華生は控えめな笑い声を漏らした。  一彬兄様は、照れるとそっぽを向く。ほら今も、頑として私を見ようとしない。  赤信号で車を停止させると、優しく頭を撫でてくれた。信号が青に変わると気まずそうに唇を結ぶのは、言葉にできないのが後ろめたいから。  意地っ張りで口下手な兄様の隣は、私以外似合わない。  嶋木華生は、夫の碧い香りに包まれるミニバンの助手席で、今日も幸せそうに微笑んでいる。
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