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扉を開けると、そこは埃臭い雑居ビルの一室だった。
「ついてますね」
野々原三佳は、三佳の姿を見るや琥珀色と淡いブルーのオッドアイを妖艶に細めてそう言った目の前の男性にぽかんと口を開け、
「おめでとうございます、採用です」
「え? ……え?」
にっこり。その恐ろしく綺麗な顔から放たれる至高の微笑みと、まるで泉が湧き出るような穏やかに澄んだ声色に空気が掠れた音しか出せなかった。
「何かご不満でも?」
「いえいえいえいえ滅相もございません!」
「そう。なら、よかった」
三佳の反応が芳しくなかったのだろう、その人は不安げに眉根を下げるが、はっと我に返った三佳がブンブンと勢いよく首を振ったので、ほっとしたようにまた微笑む。
穏やかな声と、目を逸らしたくなるほど美しいがどうしたって見てしまう、見目麗しいその顔。三佳は失礼を承知でぽーっとその人を見てしまいながらも、頭の片隅では、これは新種の就職詐欺なのではないかと思った。そんな詐欺は聞いたことがないが、志望動機や自己アピールもなしに即採用されてしまったのだから、疑ってしまうのも無理はない。
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