■0.これが事のはじまりなわけで

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 だったら昼休みや帰宅後にプロ仕様の知識を身に付けていくしかないというわけで、早坂にデスクワークを教えてもらいながら、一日でも早く戦力となれるよう、プロが使う掃除用具や洗剤のことなどを一生懸命に覚えようとしていた。  けれど、今日に限っては本当に限界だった。  早坂の温かい言葉に抗うこと二日、とうとう精魂尽き果ててしまったようで、まるで何かに覆い被さられているかのように肩のあたりから背中にかけてズンとした重みがあり、言い表しようのない猛烈な眠気が襲う。  早坂所長もああ言ってくれたし、ちょっと休んでも大丈夫だよね……。  そうして三佳は、疲れた体を少しでも休めようと、むさぼるように没睡していった。  ――のだけれど。  少しして、ふと頬に柔らかな刺激を覚えて、三佳は眠りから呼び戻された。  といっても、まだまだ八割方は目覚めていない。夢うつつながら頬にかかる何かを無意識に手で払いのけ、また底なし沼のような眠気の中に意識を埋没させていく。  アラームは最大ボリューム。しかも寝過ごしてはいけないと耳元に置いておいた。時間になれば嫌でも叩き起こされる手筈だ。それまでは、もう少しだけ休ませてほしかった。
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