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――とにかく。
「……あの、本当に早坂所長なんです……よ、ね?」
「ええ。普段は人間の姿でハウスクリーニング会社をやっていますが、時と場合によってはオオカミの力を全開にすることもあります。まあ、たいていは人間の姿に耳が生えたり尻尾が出たり、といった具合ですが。相手の力や出方を見て、僕も力加減をするんです。弱い相手を前にわざわざ全力の姿を見せるほど、僕はサービス精神に溢れているわけではありませんからね。それに、いちいち全開にしていては僕が疲れてしまいます」
「はあ……」
「あなたはご存じないかもしれませんが、野々原さんはとにかく憑かれやすい体質なんです。さっきの猛烈な眠気は、生前、子育てと仕事と親の介護に旦那の世話に明け暮れ続けた結果、睡眠時間が削られただけでなく病を患ってお亡くなりになってしまった女性の霊が引き起こしたものなんです。どうにも寝たくて寝たくて仕方がなかったんですね。『あ、ちょうどいい器がある、入って眠ろう』――それが、あの眠気の正体です」
「うわ……」
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