■0.これが事のはじまりなわけで

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「で、話は前後しますが、そこで野々原さんの出番となるわけなんです。僕の会社は、表向きは普通のハウスクリーニング会社をやっています。でも、裏の顔も持ち合わせているんですよ。……もうおわかりですね? 【危険物件】の処理や解決が、裏の顔です。僕が先陣を切って乗り込んでいっても、向こうは僕の力を察して一時的に避難するだけで、しばらくすると、また元どおりになってしまうこと、しばしばで……。こちらとしては一気に片づけたいわけですから、逃げられると、ほとほと参っちゃうんですよ。その点、野々原さんなら、自分が望むと望まざるとに関係なく霊のほうから寄ってきてくれるので、かなりの逸材なんです。今夜の物件はまさに、そんなあなたのデビューに打って付けの物件です。存分にその体質を活かして頑張ってくださいね。期待していますよ」 「ちなみに、私に拒否権は……」 「ふふ」 「あの、拒否権……」 「ふふふふ、ふふ」 「ないんですねわかりましたよ行きますよ!」 「お見事! それでこそ野々原さんです!」  いまだにわけがわからなさすぎて頭の整理が追いつかないが、早坂のこの姿にも、もう一つの仕事とやらにも順応しなければ、三佳に明日の飯はないらしい。  しかもこのとおり、危険物件での掃除は強制である。  郷土にいる家族の手前、仕事が合わないなんて理由でのこのこ帰るわけにはいかないので、三佳は完全に投げやりで物件の掃除に行くことを了承するしかなかったのだった。  職権乱用とは、まさにこのことである。
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