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とはいえ、明日の飯の権利を握られている以上、三佳に選択肢はなかった。
夜――出やすいという深夜の時間帯を待って〝お掃除物件〟とやらに赴くと、そこは、ごくごく普通の二階建てアパート。ひとり暮らし用で、古いわけでもないが新しいわけでもなく、本当に〝ごく普通の〟という言葉がぴったり当てはまる物件だった。
逆を言えば目立つところがない。アパートなんてだいたい似たようなものだけれど、例えば、外壁が赤や青で塗られていて印象に残るとか、屋根の形や素材がほかとは一風変わっていて遠くからでも目立つとか、そういった突出したところがないのだ。
仮眠を取ってくださいね、とは早坂の言葉だ。でも、強制的に向かわせられるのに寝られるわけもなく、むしろ時間が経つごとにギンギンに目が冴えてしまって仕方がない。
だって、どんなに恐ろしい目に遭わされるだろうと、身も心も縮み上がる思いなのだ。そんな心理状態で仮眠を取れるほど、三佳の精神力は鋼じゃない。
そんな中見上げたアパートは、しかしある一点でとんでもなく目立っていた。
「……うう、く、暗い……」
夜なのに部屋の電気が一つも点いていないのだ。
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