■0.これが事のはじまりなわけで

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 早坂からは必ず中に入るようにと言われているが、玄関先でもこれなのだ。部屋の中に充満する空気の重さに、三佳の足は中へ踏み込むための一歩がなかなか出ない。  ――と。 「きゃあっ!?」  突如、背中に突き飛ばされるような衝撃を感じ、三佳は悲鳴を上げた。まるで尻込みしている三佳に痺れを切らしたようなそれは、体を否応なしに部屋の中に入れる。 「えっ!? ちょ、待って!!」  次の瞬間には無情にも背後でドアが閉まる音が響き、次いで鍵の掛かる音までした。  幸いなのは……と言ってもいいのか。その間、三佳の手にはしっかりと懐中電灯が握られていたので、真っ暗闇の中に丸腰で放り出されずに済んだ。  ただ、突き飛ばされて転んだ際に思いっきり手首の内側をコンクリートの玄関に擦ったので痛い。すごく。 「っ。所長……!! 早坂所長っ!!」  しかし三佳は、直後からドンドン、ダンダンとありったけの力でドアを叩きはじめた。  擦り傷や打ち身になど構っていられるものか。それよりもっと恐ろしいものの中に放り込まれてしまったのだ。傷の痛みなど、もうないに等しい。  だって、頭で考えなくても本能でわかる――閉じ込められたのだ、この部屋に。
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