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にわかには信じられないが、三佳の背中を突き飛ばしたのも、ドアを閉め、鍵まで掛けたのも、きっとこの部屋を拠点にしているものの仕業に違いない。
どうやらアパートに入居した人の気分や精神状態を悪くさせるだけではなく、三佳のように二の足を踏んだり初めから怖いと思いながらここへやって来た人間へは強行手段にも出られるらしい。
何が目的でさらに怖がらせるようなことをするかは、わからない。わからないから、ただただ恐怖でしかない。得体が知れないぶん、それは増幅される。
「所長ってばっ!! こんなの聞いてませんよ、早く来てくださいよっ!!」
涙声で叫び続ける三佳の精神状態は、もう崩壊寸前だ。
「……、……。……な、なんで来てくれないんですかぁー!!」
が、残念なことに最大ボリュームで叫んだ声に応えてくれるものはなかった。
そうだ、所長は所長のタイミングで出てくるんだった、と思い出したときには、三佳の喉はガラガラに枯れ、ドアを叩き続けた拳はジンジンと虚しい痛みしか残っていなかった。
代わりに応えたのは、ガタリという何かが動く音だ。
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