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「ひぃっ!」
引きつった悲鳴を上げながらも条件反射的にそちらに懐中電灯の明かりを向けると、備え付けのクローゼットの扉がガタリ、ガタリ。まるで三佳を呼ぶように動いているのが目に留まる。
……もしかして開けてほしいのだろうか。とはいえ、ひとりでに動いているだけで空恐ろしく、加えてまだ早坂が登場するタイミングではないことを暗に示された三佳は、とたんに体中から力が抜け落ち、その場にヘナヘナと腰を抜かしてしまった。
――ガタリ。ガタ、ガタ。ガタガタ、ガタリ。
しかし、その間もクローゼットの扉は動き続ける。しかも、それに呼応するように、あれだけ部屋中に漂っていた禍々しい空気の中に、大きな悲しみのような感情が広がっていくのだから、三佳はもう本当に何が何だかわけがわからなくなってくる。
三佳を突き飛ばしたのも中に閉じ込めたのも、この部屋に憑く霊の仕業だ。でも、ひどい悲しみの感情も、クローゼットの扉を動かしているのも同じ霊なのだとしたら――あまりに両極端な行動すぎて、三佳にはどちらが本当の霊なのか、わからないのだ。
「しょちょぉ……」
早坂を呼ぶ声は、もう蚊の鳴くようなものだった。
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